「個別株を買いたいけれど、3,800社以上ある上場銘柄からどう選べばいいのか分からない」——これは個別株投資を始めた人の9割が最初にぶつかる壁です。
私自身、宅建士として不動産の財務分析に関わってきた経験から株式投資に入ったとき、最初の半年は「銘柄選びの軸」が定まらず、SNSで話題の銘柄に飛び乗っては塩漬けにする日々でした。転機になったのが「会社四季報を使った体系的なスクリーニング」です。やみくもにチャートを眺めるのをやめ、四季報の数字を起点に「定量フィルタ→定性分析」の順で銘柄を絞るようにしたら、勝率もメンタル安定も劇的に変わりました。
この記事では、2026年最新版の会社四季報を使って、個別株を体系的にスクリーニングする実践手順を、初心者〜中級者向けに5つのチェック項目に整理して解説します。日経新聞・東証マネ部のデータも踏まえ、再現可能なかたちでまとめました。読み終える頃には「次の四季報発売日に、自分の手でスクリーニングが回せる」状態になっているはずです。
なぜ「会社四季報」が個別株スクリーニングの起点になるのか
会社四季報は、東洋経済新報社が年4回(春号3月・夏号6月・秋号9月・新春号12月)発行している、全上場約3,900社の企業情報集です。1936年の創刊以来、日本の個人投資家にとって「銘柄選定のバイブル」と呼ばれてきました。
なぜ四季報が「個別株スクリーニングの起点」として優れているのか。理由は3つあります。
- 独立した予想値が載っている:四季報は東洋経済の記者が独自に取材・予想した売上・利益見通しを掲載しており、企業側の保守的なガイダンスとは異なる「第三者の視点」が得られる。
- 全銘柄を同じフォーマットで比較できる:個別IR資料は会社ごとに体裁がバラバラだが、四季報なら同じ項目・同じ並びで横比較できる。
- 過去3期+今期予想+来期予想の業績推移が一目で読める:成長トレンドを定量で把握する作業が、1ページ20秒で完結する。
日本経済新聞も「数億円運用する達人 有望株の発掘作業を5分に短縮」という記事で、ベテラン個人投資家が四季報を起点にした作業を高速ルーチン化していることを紹介しています。「3,900社から有望株を5分で絞り込む」のは、感性ではなく仕組みの力です。
まずはツールとなる本体を確保しましょう。最新号で進めるのが鉄則です。

『会社四季報 2026年2集 春号』(東洋経済新報社)
個別株投資の出発点。約3,900社の最新業績予想と財務指標がコンパクトに収録されており、紙版でページをめくる行為自体が「業界横断のセレンディピティ」を生みます。「気になる銘柄に付箋を貼っていく」だけで、自分なりの注目リストが出来上がります。
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なお、四季報を本格的に読むのは初めて、という方には、四季報編集部が「特に有望」と選んだ500銘柄に絞ったダイジェスト版『プロ500』もおすすめです。

『会社四季報プロ500 2026年 春号』(東洋経済新報社)
本誌の1/8の厚さで持ち運びやすく、500銘柄に絞られているので「読み切れずに挫折する」リスクが激減します。本誌と併用すると、注目銘柄の深掘り+本誌での周辺銘柄チェックが効率化されます。
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四季報スクリーニング・5つのチェック項目【完全版】
ここからが本題です。四季報で個別株をスクリーニングする際に、最低限チェックすべき5つの項目を順に解説します。順番が重要で、上から順にフィルタをかけることで、無駄な深掘りを避けられます。
① 売上高・営業利益の3期連続成長
最初に見るのは「業績欄」の売上高と営業利益の推移です。具体的には、過去3期の実績+今期予想+来期予想の5期分で、売上高と営業利益が右肩上がりかどうかを確認します。
判定基準はシンプル:
- 売上高:年率5%以上の成長が3期以上続いている
- 営業利益:売上と同等以上のペースで伸びている(=営業利益率が改善 or 維持)
- 営業利益率:最低でも5%、できれば10%以上
営業利益が売上ほど伸びていない銘柄は「規模は拡大しているが、儲ける力が弱まっている」状態で、コスト構造に問題を抱えていることが多いです。私はこの段階で2/3の銘柄をふるい落としています。
② 自己資本比率&有利子負債で「財務体力」を測る
業績が伸びていても、財務が脆い会社はちょっとした逆風で倒れます。次にチェックするのは「財務」欄です。
- 自己資本比率:40%以上(製造業は50%以上が理想)
- 有利子負債:自己資本の50%以下
- 営業キャッシュフロー:3期連続プラス
自己資本比率が20%を切っている銘柄は、業績好調でも金利上昇や受注減で一気に資金繰りが詰まる可能性があります。逆に、自己資本比率が80%超なのに無借金経営かつ営業CFがしっかり出ている企業は、株主還元(増配・自社株買い)の原資が豊富で、長期保有に向いています。
財務諸表の読み方が初めての方には、財務3表(PL・BS・CF)の繋がりを直感的に理解するための入門書を1冊持っておくと、四季報の数字が「立体的に」見えてきます。

『【新版】財務3表一体理解法』(國貞克則/朝日新書)
PL・BS・CFの3表が「どの取引でどう動くか」を1つの図でつなげて解説した名著。891円とは思えない情報密度で、私もキャリア初期にこの本で財務の骨格を理解しました。四季報の「業績」「財務」欄を読むときの解像度が一段上がります。
③ ROE・ROA・営業利益率の「収益性トリオ」
規模感(売上)と財務体力(BS)の次は、収益性です。四季報の「指標等」欄に載っている3つを確認します。
- ROE(自己資本利益率):10%以上——株主資本をどれだけ効率的に使って利益を生んでいるか
- ROA(総資産利益率):5%以上——借入も含めた総資産でどれだけ稼げているか
- 営業利益率:業界平均の1.5倍以上——同業他社と比べて、儲ける構造があるか
特にROEは「伊藤レポート」が10%目標を提言して以降、東証も上場企業に意識的な向上を促しており、機関投資家のスクリーニング条件の常連です。日経新聞も「隠れた有望株を探し出す「マネックス銘柄スカウター」活用術」でROE・営業利益率を主要フィルタとして紹介しています。
ただし、ROEだけ見て選ぶのは危険です。「自己資本比率が低くて借入で底上げされたROE」は、見かけは綺麗でも財務リスクが高いからです。必ず②の財務体力と組み合わせて判断します。
④ PER・PBRで「株価の割安度」を測る
業績・財務・収益性が良くても、株価が既に過熱していれば「いい会社・悪い株」になります。次は割安度のチェックです。
- PER(株価収益率):業界平均以下、または15倍以下が目安
- PBR(株価純資産倍率):1.5倍以下、最低でも2倍以下
- 配当利回り:2%以上(インカム狙いなら3%以上)
2023年に東証がPBR1倍割れ企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」の開示要請を出して以来、PBR1倍前後の銘柄は「自社株買い・増配で株価を引き上げる動機」を持つようになりました。この構造変化は2026年現在も継続中で、PBR1倍前後&ROE改善傾向の銘柄群は中期テーマとして注目に値します。
「低PBR × 高ROE」の組み合わせは古典的なバリュー株戦略の王道です。ジョエル・グリーンブラット流の「マジックフォーミュラ」もこの2軸の発展形と言えます。
⑤ 四季報コメント欄の「キーワード」スキャン
最後の関門は、ここまでの定量フィルタを通過した銘柄について、四季報の「コメント欄(特色/業績/材料)」を読み込むことです。四季報の真骨頂は、東洋経済記者が独自取材で書く2つのコメント枠(業績解説・材料解説)にあります。
注目すべきポジティブ・キーワード:
- 「最高益」「上振れ」「想定超」「続伸」「拡大」
- 「値上げ浸透」「単価上昇」「シェア拡大」
- 「新製品寄与」「海外好調」「DX/AI投資」
注意すべきネガティブ・キーワード:
- 「下振れ」「減益」「減配」「減損」「特損」
- 「原材料高」「為替逆風」「人件費圧迫」
- 「在庫調整」「需要鈍化」「受注減」
特に強力なのは「会社予想 vs 四季報予想の乖離」です。会社側の予想より四季報予想が高い場合は、東洋経済記者が「会社は保守的すぎる」と判断したことを意味し、決算で上方修正されるパターンが多いです。逆に四季報予想のほうが低い場合は、警戒シグナル。この一点だけでも、四季報を買う価値があります。
業界トレンドも合わせて読む——『業界地図』の併用テクニック
5つのチェック項目で銘柄を絞ったら、最後に「業界全体のトレンド」を確認します。どんなに優良企業でも、業界自体が縮小トレンドなら長期投資には向きません。逆に、業界が拡大期にある中での平均的企業のほうが、衰退業界のトップ企業より報われやすいケースもあります。

『「会社四季報」業界地図 2026年版』(東洋経済新報社)
約190業界の市場規模・主要プレイヤー・シェア・近年のM&A・トレンドが、1業界1見開きで完結する形式でまとまっています。四季報で気になった銘柄が「業界の中でどの位置にいるか」を即座に確認できる、四季報の最強の相棒。私は四季報スクリーニングの最終ステップで必ずこの本を開きます。
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スクリーニング後の「最終フィルタ」——技術と心理の壁
四季報スクリーニングは「買うに値する銘柄リスト」を作る作業です。しかし、実際に勝てるかどうかは「いつ買うか・いつ売るか・どれだけ保有するか」という別の問題に左右されます。
個別株投資で長期的に生き残るためには、定量分析(四季報スクリーニング)だけでなく、相場心理・規律・損切りルールといった「技術と心理」の両輪が必要です。世界トップトレーダーへのインタビュー集『マーケットの魔術師』は、その両輪を磨く上で最高の教科書のひとつです。

『マーケットの魔術師 エッセンシャル版――投資で勝つ23の教え』(ジャック・D・シュワッガー/ダイヤモンド社)
原著の分厚いインタビュー集から「勝ち続けるための23の教え」を抽出した、忙しい個人投資家向けの決定版。リスク管理・損切り規律・自分のスタイル発見など、四季報スクリーニングの「次の壁」を越えるためのヒントが詰まっています。
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実践:四季報スクリーニングの「30分ルーチン」
ここまでの内容を踏まえ、私が実際に四季報発売日にやっている「30分ルーチン」を公開します。
- 0〜10分:プロ500を流し読み——500銘柄の見開きを2秒/銘柄ペースでめくり、「気になる」と感じた銘柄に付箋。直感の段階。
- 10〜15分:付箋銘柄の本誌チェック——本誌で①〜⑤の5チェックを高速適用。3項目以上で合格点なら「候補リスト」へ。
- 15〜25分:候補リストの業界地図クロスチェック——業界地図で業界トレンド確認。衰退業界の銘柄は除外。
- 25〜30分:候補銘柄のチャートとIR確認——証券会社の画面で月足チャートと直近のIR資料を確認し、最終的に5〜10銘柄に絞る。
これを四季報の発行サイクル(年4回)に合わせて回せば、年4回×10銘柄=40銘柄の質の高い候補リストが手元に残ります。すべて買う必要はなく、その中から「自分のポートフォリオの偏りを埋める」「自分の理解できるビジネスを優先する」という観点で2〜3銘柄を組み入れていく、これが個人投資家にとって最も再現性の高い王道だと考えています。
まとめ:四季報スクリーニングは「再現可能な王道」である
個別株投資の世界には「億り人になった人の必勝法」「AIで瞬時に銘柄選定」といった派手な手法が溢れています。しかし、長期的に資産を作っている個人投資家の多くは、地味な四季報スクリーニングを淡々と回し続けています。理由はシンプルで、再現可能で、思考停止しないで済み、市況に左右されない手順だからです。
本記事の5つのチェック項目を要約すると:
- 売上高・営業利益の3期連続成長
- 自己資本比率40%以上&営業CFプラス継続
- ROE10%以上&ROA5%以上&業界平均超の営業利益率
- PER15倍以下&PBR1.5倍以下&配当利回り2%以上
- 四季報コメントのキーワードスキャン+会社予想vs四季報予想の乖離
この5項目を、最新の四季報を手元に置いて1社1分のペースで適用すれば、3,900社の母集団から「定量的に優良な30〜50社」へ一気に絞り込めます。あとはコメント欄と業界地図、そして自分の興味と理解できるビジネスかどうかという「定性フィルタ」で、最終リストを作るだけです。
次の四季報発売日(直近は2026年6月の夏号)に向けて、今から「自分のスクリーニングテンプレート」をExcelで作っておくと、発売日に効率よく回せます。テンプレ作りこそが、個別株投資家としての一番の参入障壁であり、最強の武器になります。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。

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